2024年10月7日月曜日

ソウルでの問いと答え その2

ソウル滞在中に二つの場所「戦争記念館」と「戦争女性人権博物館」を訪れた。

「戦争記念館」は主に朝鮮戦争の戦没者を弔うために建てられたもののようであったが、展示内容は”護国の戦争”を通じて朝鮮半島の歴史を知る事ができる博物館となっている。無論、35年に及ぶ日本の統治時代の展示もあるが、1945年までを”前史”としてカテゴライズしているのは日本人としても納得せざるを得ない。何れにせよ、そこは大韓民国という国家が国のアイデンティティを内外へアピールするために建てた巨大な建築物という印象であった。ここは国が用意した”答え”が並んでいる場所である。
同行した空五郎さんが「靖国神社みたいですね」と言っていたが、確かに敗戦国である日本では戦争をこのように語ることは許されず、故に宗教という範囲に納めるしかないのだろうが、戦没者を英雄とし戦争をある種”美化”している点では同じであろう。

「戦争女性人権博物館」は日本の従軍慰安婦問題をきっかけに、韓国と日本の市民団体によって2012年に開館した博物館である。館自体は小さいものだが、展示は目と耳だけでなく、膚で体感できるように様々な工夫が見られ、インスタレーションとして設計されているスペースが導入口として作られていた。それは来場者が少しでも被害者女性たちの心情に近づけるようにという思いから生まれたものであろう。ここで感じるのは壮絶な体験から生まれた苦しみ、悲しみ、怒りであり、そして今もなお、彼女たちと向き合おうとしない韓国政府、そして日本政府に対する”問い”であり、同時にそれは今を生きている私たち自身へ向けられたものでもある(私が従軍慰安婦という言葉を知ったの定かではないが(1993年の河野談話か)水木しげるの描いた戦争漫画に慰安婦を描いたものがあったのを記憶している。水木しげるが「地獄だったろう」と書いていたのを思い出す。)

「戦争記念館」と「戦争女性人権博物館」はそもそも比較されるものではないが、この二つの場所を訪れて感じたことは、常に”答え”を掲げる国家と、常に”問い”を投げかける市民との乖離である。これは韓国に限った話ではなく、民主主義を唱える国家であるにもかかわらず、一部の者の利益、あるいはメンツのために多くの市民が犠牲となっているのは日本も同様である。
そして世界へ目を向ければ凄惨な光景が日常的に目に入ってくる時代となり、暗澹たる思いではあるが、私たちはこれまで同様に絶え間なく”問い”を投げかけ続けなくてはならないだろう。

「戦争記念館」

「戦争女性人権博物館」



2024年10月4日金曜日

ソウルでの問いと答え その1

 ソウルインディアニメーション映画祭に参加するため、 9月27日から10月1日まで音楽家の上の助空五郎さんとソウルを訪れた。初韓国である。フェスティバルディレクターであるチェ・ユジンさんによればこの映画祭は、立ち上げ当初は韓国アニメーションのための映画祭だったが、回数を重ねる事にアジア全域へと広がり、今年は20回目を迎える節目の年になったという。私たちは27日に行われた20th anniversaryに参加し、そこで空五郎さんが「カワウソ」と飛騨民謡「ぜんぜのこ」を歌い、会場を盛り上げたのだった。

私たちの「カワウソ」は28日に1回目の上映が行われた。観客はほぼ若者で埋まっていたが上映後のQ&Aでは多くの質問が集中し、彼らの学ぼうとする姿勢には感心するものがあった。「ハンバーガーが落ちてくるのは資本主義への批判ですか?」と半分冗談の様なこの質問を受けたのは初めてだったが、韓国の若い世代にもそんな視点を持つ人がおり、それは現在の韓国の"豊かさ”への”問い"に繋がるものなのだろうと感じた。日本の若者同様に自由と豊さを享受している様に見えてもその奥には不安と疑念が横たわっている。「カワウソ」で描きたかった事の一つにそんな”問い”があったのは確かであるが、落下するハンバーガーやコカ・コーラを見て”資本主義批判”を連想する人がどれほどいるだろうか。私はこの質問を受け、かつてメキシコのルベン・ガメス監督が「血のコカ・コーラ」でコカ・コーラをその象徴として描いていたのを思い出していた。

2016年に釜山国際映画祭が国からの圧力により「上映の自由」が危ぶまれた事実は世界中が記憶していることであるが、その後も政府に批判的な監督や製作会社のリストを提出せよと韓国政府が映画祭に圧力をかけたというニュースも耳に入ってきていた。それは一見自由で活気に溢れる華やかなソウルの風景からは少し想像し難い事ではあるが、常に国からの圧力に抗いながら表現を続けている人々が韓国にはいることを物語っている。そしてそれは落下するハンバーガーに”問い”を持つことと少し重なる様に私には思えた。
疑問”がなければ”問い”は生まれず、そして”答え”にたどり着くこともない。今回のソウルインディアニメーション映画祭では多くの作品が様々な”問い”を投げかけており、それは今後のアジア文化の発展を大いに予感させてくれるものだった。これからのアジアに期待して良いだろう。

감사합니다 Seoul Indie-AniFest2024.


Photo by kasumi ozeki


"kawauso"10月の映画祭予定

10月、”カワウソ”が上映される映画祭が幾つか決まっているので、公式発表されているものについてここに記しておきます。

シッチェス・カタルーニャ国際ファンタスティック映画祭(スペイン)10/3 ~13

パリサイエンス映画祭(フランス)10/10〜28

サイエンスニューウェーブフェスティバル(アメリカ)10/18

カンランドゥランラルアニメーション映画祭(トルコ)10/21 〜 27

アル・シドル環境映画祭(アラブ首長国連邦)10/25 〜 27


Sitges Film Festival

PARISCIENCE International Science Film Festival

Science New Wave


Canlandıranlar Animation Film Festival


AL SIDR ENVIRONMENTAL FILM FESTIVAL


2024年9月7日土曜日

"kawauso"9月以降の映画祭予定

 9月以降、”カワウソ”が上映される映画祭が幾つか決まっているので、公式発表されているものについてここに記しておきます。

オルヴィエート映画祭(イタリア)開催日:9月25日 - 29日(コンペ)

オタワ・アニメーション国際映画祭(カナダ) 上映日:9月26日、28日(コンペ)

ソウル インディー アニフェスト映画祭(韓国) 上映日:9月28日、30日(コンペ)

青きドナウ映画祭オーストリア、ハンガリー、スロバキア) 開催日:10月1日 - 10月5日(コンペ)


Orvieto Cinema Fest

Ottawa International Animation Festival

Seoul Indie-AniFest

Blue Danube Film Festival


2024年8月23日金曜日

NEUE HEIMAT film festival

8月23日からドイツで開催されるノイエハイマート映画祭で"カワウソ”が上映されます。コンペではありませんが「個人的な物語と世界的な文脈を織り交ぜた国際的な短編映画とドキュメンタリー映画祭」であり、"kawauso"のスチールがポスターとして使われています。

「疑いもなく、私たちは世界の間をさまよっています。ユートピアは昨日のことだった――誰が振り返る暇があるだろうか?出口はありません。」
世界の様々な深刻な現状について意見が交わされる場になるようです。

NEUE HEIMAT film



2024年8月11日日曜日

ブルターニュ国際映画祭で最優秀国際アニメーション映画賞受賞

8月6日からフランスで開催されたブルターニュ国際映画祭において、”カワウソ”が「最優秀国際アニメーション映画賞」を受賞しました。映画祭と審査委員の皆様には心より感謝いたします。ありがとうございました。

受賞を知らせるメールの内容を転載しておきます。

”We are pleased to inform you that your film won the Best International Animation Film Award at the Brittany International Film Festival. Our audience as well as our Jury liked your film very much. Congratulations !Everyone was very moved by the story of the extinction of this beautiful animal and the little children in the audience were amazed by the drawings. We wish a lot of succes with this beautiful film and for all your projects to come.”

https://festivaldebretagne.fr/palmares-du-festival-de-bretagne/#palmares2024


2024年6月22日土曜日

"Golden Dragon" クラクフ国際映画祭で最優秀映画監督賞を受賞

 5月26日からポーランドで開催された”クラクフ国際映画祭”短編部門において”kawauso”が最優秀映画監督賞(ゴールデン・ドラゴン)を受賞しました。

「ミニマリストとマキシマリストの両方を備えた純粋な芸術作品。人間の文明と自然の関係について、静かに立ち止まって考えさせられる、神秘的で詩的な映画です。」と審査員の方からコメントをいただきました。このような高い評価をしていただき、映画祭と審査員の方々には心より感謝申し上げます。ありがとうございました。映画祭期間中、どうしてもクラクフに足を運ぶ事ができず非常に残念でした。

クラクフ国際映画祭はドキュメンタリー、アニメーション映画、短編映画を専門とする映画祭で、国際映画製作者連盟 (FIAPF)、欧州映画アカデミー (EFA)、映画芸術科学アカデミー (AMPAS) の認可を受けているポーランドで唯一の映画祭です。大変光栄に思います。





2024年4月6日土曜日

"kawauso" 映画祭予定

4月以降、”カワウソ”が上映される映画祭が幾つか決まっているので、公式発表されているものについてここに記しておきます。

香港国際映画祭(HKIFF48) 上映日:4/5、4/8(コンペ)

ボルツァーノ国際映画祭(Bolzano Film Festival BOZEN・イタリア)上映日:4/16(コンペ外)

モスクワ国際映画祭Moscow International Film Festival)4/19-26(コンペ外)

アヌシー国際アニメーション映画祭(annecy festival)6/9-15(コンペ)


HKIFF48


Moscow

annecy


2024年3月3日日曜日

ベルリン国際映画祭終了

 

 ベルリン国際映画祭74。参加4回目となる今回はこれまでと大きく異なる印象を持って終わることとなった。開催前からドイツでは親パレスチナを表明するアーティストへの検閲に対する批判、それにともなって映画祭への不参加や出品を辞退する監督が出るなどし、国内でもネット上ではボイコットすべし!のような言葉も散見されていた。それらを踏まえ、どのような形でベルリナーレに参加すべきなのか悩ましいところであったが、結局自分はその答えを出せぬまま現地に入り、映画祭のスケジュールに翻弄され、英語の不自由さも重なりパレスチナ問題に触れること無く映画祭を終えることとなった。(やった事と言えば一度だけクーフィーヤを巻いて登壇したぐらい)

 何れにせよ、映画祭の中に入ってしまうとその圧倒的な雰囲気に圧されて様々な問題意識が薄れていったのは確かである。おそらくそれは自分だけではなく、身近で見ていた他の若い監督たちも同様だったように思う。今回のベルリナーレショーツは半数以上が西ヨーロッパの作品で占められており、それは作為的なものなのか偶然なのかは判断できないが、幾人かの監督たちは開催前からSNSで連絡を取り合い連帯し、パレスチナ問題について何かアクションを起こすことを考えていたようだった。しかし彼らも特に目立った発言はなかったように思う。(もししてたらごめんなさい)ただ授賞式で「No Other Land」(イスラエル人とパレスチナ人の二人の監督による作品)がドキュメンタリー賞を受賞した瞬間には歓喜の雄叫びと一段と激しい拍手を送っていたのが印象的だった。


 戦後、民主主義を何よりも優先してきたドイツにとって、ベルリナーレもそのドイツの”正しさ”をアピールするための重要な場であることに違いはない。三大映画祭の中でも突出して社会問題を扱った映画を上映することは誰もが知るところであり、今回のAfD議員締め出しや、何よりも受賞結果がそれを十二分に語っていると言えるだろう。しかしベルリナーレ終了後のドイツ国内メディアや政府機関からは「反ユダヤ主義」と言う言葉が氾濫し、10.7と人質問題に触れなかった事を理由に授賞式の内容を批判する声が上がり、それに呼応するように言い訳をする文化大臣の姿もあった。

そこから見えるのは何であろう。単純に政治と文化は同質ではないということだけだろうか。或いは全く別の理由、それこそ長きに渡る一部の権力者の策略によって引き起こされてしまった矛盾に国民が翻弄されてしまったと言うことだろうか。


 戦後、歴史と向き合うこと無く現在に至る国に暮らす私に、ドイツとドイツ国民が今現在抱え込んでしまった”矛盾”について語る言葉など無いのかも知れない。それでも、そんな自分が今になって考えてしまうのがベルリナーレ開催の中、映画祭運営に携わる人達はどのような心境でいたのか。と言うことである。パレスチナ擁護を発言するだけで「反ユダヤ主義」と見做されるような状況下で、常に笑顔でゲストをサポートしてくれた彼らがどんな気持ちでベルリナーレを迎え、そして終えたのか。当然一様ではないだろうが、中には苦しい立場に立たされていた人もいたのかもしれない。ベルリナーレショーツのキュレーター、Anna Henckelの示唆的な言葉をここに転載しておく。


「現在、私たちがお互いに対話する方法は、思い込みと不信によって規定されている、それ故、人々がスクリーン上でお互いを信頼し合うとき(特にお互いのことを知らない者が)それはとても感動的だと感じます。」



 ドイツに限らず、西ヨーロッパがこれまで維持して来た”権威性”に揺らぎを感じ始めている、というのは大袈裟だろうか。しかし、だとすれば今後もこのような国家レベルの映画祭が存続していくためには、大きくその有り様を変える必要があるのかも知れない。



2024年1月18日木曜日

Berlinale Shorts 2024

 「カワウソ」がベルリン国際映画祭2024短編部門にノミネート。感謝すると共に、国際映画祭という文化的イベントが本来持っているはずの目的と効果とは何であるのか、考えてみたい。